母に、「深いわよ〜」と薦められた映画『ベニスに死す』(1971)を鑑賞しました。

M

休暇先のベニスで見つけた美少年への思いを募らせた、
老作曲家の苦悩を格調高く描いた映画です。

表面的に見ると、死の直前に、美少年に恋心みたいなものを抱いてしまう、
老作曲家の滑稽なお話になってしまうのです。
もちろん、それだけではないのです。

しかし、30代の私にとって、老作曲家への感情移入は、
ちょっと難しいものがありました。

いろいろとレビューを検索していくうちに、
「美とは何か?」「老作曲家が探求しているものは?」
「老作曲家が美少年に投影していたものは何か?」
「ベニスという美しい街がコレラに侵されていくこと」、「流れている音楽」、
「老作曲家の表情」、「郷愁にかられるとき」などから、様々なものが読み取れることを知りました。

また、年齢的にも、老作曲家に近い方ほど、やはり感情移入しやすいようです。
もう少し、歳をとってから見直したい作品です。


でも、圧倒的にわかることは、監督の美意識の高さです。
ドレス、ハット、カバン、ヘアスタイル、ホテルの内装、音楽、風景、
人々の佇まい、話言葉、笑い声。

ありがたいことと、言えるのかもしれません。
言葉が少ない分、自分が映画の中に入っていって、
その格調高く美しい風景を一緒にあじわっているかのような気分になれるのです。
先日観た、『To the wonder』もこちら系の作品なのかなと思いました。 
言葉よりも、表情やしぐさでの演技に、人間らしさをとても感じました。

ついつい、心を奪われるもの。
ついつい、目を追ってしまうもの。
ずっと、気になり続けているもの。

そこと、心が何かを結び付けているのでしょう。

老作曲家が、美少年を見つけたときの高揚感。
しかし、決して、話しかけられず、触れられず、
その切ない思いを感じたくなくて、離れようとした時、
運命のいたずらか、また向き合うことにならざるをえなくなった、
そのとき、自然と湧いてきたような嬉しそうな表情。

そこから、至福の時が始まるかと思ったら、
ベニスの街がコレラに侵され、老作曲家も次第にむしばまれていく。
死の間際に見た「美」。

この人生は果たして幸せだったのだろうか?


高評価を得ている作品です。
私も、もう少しノスタルジックに浸れるくらい、
いろいろな思いをこれからしていきたいなと思いました。

そうしてこの映画を観たとき、何かがわかるのかもしれません。


Death in Venice(英語字幕フルバージョン)